ドミニクの乱、トーマスの変

カラー・フィルハーモニック・オーケストラの立ち上げに際し、兼ねてより指揮者の金山先生と親交のあったウィーンフィル楽団長(元)の息子さんである、同じくウィーンフィルの2ndヴァイオリン奏者のドミニク・ヘルスベルク氏をソリストとして向かえるという企画でスタートしました。

 

ウィーンフィル奏者と夢の共演!ということで大きな期待を胸にメンバーが集結し、ブラームスのヴァイオリン協奏曲という魅力的なプログラムに向かって練習を始めました。新規のオーケストラ立ち上げということで、寄せ集め的な要素もありましたが、初回の合奏から良い感触があり「これは良い演奏会になるぞ!」と確信を持ちました。

 

しかし、事件は起こりました。

 

練習を初めて4回目のリハーサル中、その日出張でヨーロッパに行っていたメンバーTさんから連絡が入りました。「緊急連絡」とのことで、「???」と思い合奏中慌ててSNSで連絡を取り合いヨーロッパからの知らせを聞きました。その内容は衝撃的で、ソリストのドミニク・ヘルスベルク氏から電話があり、奥様の急なご病気の為に来日を断念せざるを得なくなったとのことでした。

 

さあ、大変です。

 

本番まで残された時間は3週間ほど。血の気が引きました。代わりのソリストを探さなければなりません。しかも、ウィーンフィル奏者からの変更のため、それなりの人を呼ばなければメンバーは納得しないでしょう。まずは同じウィーンフィルの同僚の中から誰かやってもらえないか聞いて欲しいとの旨を伝えました。

 

本番まで残り3週間、しかもウィーンフィルはツアー中でした。スケジュールがみっちり入っていて忙しい為、今からさらう時間も余裕もなく、なかなか良い返事を聞くことが出来ませんでした。

 

そんな中、ウィーンフィルの若手メンバーで一年前の来日公演時に一緒に食事に行ったことのあったトーマス・キューブルベック氏から「今チャイコフスキーの練習をしているから今からブラームスは出来ない」という回答があったことに注目したメンバーTさんの逆転の発想で「じゃあこちらがチャイコフスキーに変更してはどうだろう?」という究極の提案をしたところ、急な事情を考慮して頂きなんとOKをもらいました!来日中止の連絡の4日後のことでした。

 

ここでトーマス・キューブルベック氏とチャイコフスキー協奏曲の共演が決定しました。さあ、そこからメンバーへの事情の説明です。本番を前にしてソリストと曲目の変更ですので大きな出来事でした。幸い不満の声もなく、この状況を一緒に楽しんでもらえました。チャイコフスキーの練習が出来る時間は弦分奏1回と合奏3回、あとは当日のソリスト合わせで本番というスケジュールでした。

 

そして迎えた本番当日のリハーサル。ソリストのトーマス・キューブルベック氏の隣には見慣れたもう一人のウィーン人が。なんと!トーマス氏の父でウィーンフィルの首席トロンボーン奏者のディートマル・キューブルベック氏が、自身の出演するイベントの前の時間に寄ってくれました。本番はイベントで見に来れないのでリハーサルを見に来たとのことでした。

 

ついでに吹いて行ってくださいとお願いしたら快く参加してくれまして、一緒にメインのブルックナー6番を演奏しました。感想やアドヴァイスも頂き、金管楽器奏者にとっては至福の時でした。ブルックナーにはトーマス氏も加わり残りのメンバーも大興奮!急なトラブルを乗り越え、大変貴重な経験となりました。

 

もちろん本番も成功し、急な依頼を引き受けてくれたトーマス・キューブルベック氏にも楽しんでもらえました(演奏はYouTubeを参照)。動画が気に入った様子で、ウィーンで色んな人に見せているようです。今度は叶わなかったドミニク・ヘルスべルク氏との共演を予定していますのでお楽しみに!

 

※その後ドミニク・ヘルスべルク氏の奥様は回復されお元気とのことです。

トーマス・キューブルベック氏が使用した譜面

譜めくりが出来ない為縮小コピーして作って来たそうです!

楽しすぎたリハーサルの様子

ディートマル・キューブルベック氏と満足げな金管低音メンバー

©Takashi Fujimoto

花束・・・じゃなくて日本酒贈呈!

©Takashi Fujimoto

ウィーンフィルメンバーも聴きに来てくれました!